船内を包む音はバケツをひっくり返したような
雨音と強い風の音。
予報ではまだまだだと思っていた嵐は
思っていたよりもずっと早く島の近くを通過中だ。

船内には私とタカシ。そしてカナコ。
南十字島の湾内に浮かぶグラドネール号は
嵐の夜にはひどくゆれる。
いつもは穏やかな海の上も今日ばかりはそうではない。

「シモーヌ部屋に戻ってなさい。」
「でも奥様。」
「しょうがない子ね。」

暖かい手がぽんと頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめられる。

「あの？奥様？」
「わたくしは忙しいの、タカシあとはお願い。」

残された私たちはものすごい音をたてている
船の外の音をききながら顔を見合わせた。

船がゆれるとタカシもゆれる。
同じタイミングでゆれるのがたのしくなって笑ってしまう。

「ふふ。」
「シモーヌ。大丈夫そうだね。
　難しい顔をしていたから心配してたけど。」
「べ、別に難しい顔なんてしてないわよ。」

耳まで真っ赤になりながらも答えるが
心配をかけていたのかもしれない。
波と一緒にゆれる船はゆらゆらふわふわ。
不安だけどタカシと一緒に揺れてるのなら
少し怖いけど大丈夫。
雨音と心臓の音が重なって心地いい音になる。

この嵐も過ぎればきっといつもと同じ穏やかな波の音になるから。